どくしょかんそうぶん「ゴロヴリヨフ家の人々」

はじめに(自分語り)

とある面談時に「気分転換にロシア文学をよく読む」と言った。逆に気が滅入りそうですね、なんて言われたが、これぞロシア文学だ的作品は、みんながイメージするよりもずっと明るい。仮に将来的な破滅が見えていても、それまでは結構愉快に楽しくやっている印象だからだ。ロシア文学浅チャプ勢としてはそういう気分だった。今回読んだゴロヴリヨフ家の人々は、ド田舎で一族が滅亡するまでのお話である。陽キャ的な暗さのデスメタルと、陰キャ的な暗さのドゥームメタルのどちらかというと、後者といった趣だと思う。これまで読んだロシア小説の内でぶっちぎりに陰鬱だ。メタルで例える意味は特にない。

内容

ロシア文学はわりかし高尚なので、一族滅亡というと、一人くらい世を儚んでの自殺者がおるのではないかと思っていた。実際はだいたい酒で死ぬ。主人公格のポルフィーリも最後は酒をガブガブやる。イウードゥシュカ(ユダ)や吸血人などと呼ばれる彼は、そのあだ名にふさわしく非人間的な性格で、ドケチでサイコパス野郎だ。弟が死んで領地を継ぐと同時に、母親を激鄙びたとこに追いやるシーンがある。お母さんを乗せた馬車を見送るポルフィーリは思わず(悪気がないのがヤバイ)、「その馬車はいつ返してくれるのか?」と聞く。当然お母さんは激おこである。ポルフィーリの息子(将校さん)が官費を使い込んだ時(ギャンブルです)も、「お前に金は一文も貸さないが、お祈りはしよう!」みたいなことを言う。再度のお願いに対しても、説教臭い「これからは心を入れ替えてまじめにやるんだぞ。当局が追放で許してくれるのをありがたく思いなさい。金はやらんけど」という返信をする。ちなみに息子は、追放先に行く途中で死ぬ。そういうほっこりエピソードが続々おきるなか、残っていたポルフィーリの兄弟(姉(開幕で死んでる)、兄(アル中)、本人(ポルフィーリ)、弟(アル中)という感じ)はポコポコ死んでゆく。最後に、母親が死んだとき、彼はゴロヴリヨフの真の当主となった。はたから見ると面白みが全くない領地での生活も、彼はたいへんに忙しい。領地の資産をああでもないこうでもないと計算し満足している。何の役にも立たないことに齷齪しているのだ。彼はそんな風に、忙しそうにぼさっとしているうちに死ぬ。最後に残るポルフィーリの姪も、アル中でそろそろ死ぬだろう。悲しいね。

感想

農奴制エアプなので背景がいまいちわからない。その点で理解が足りないが、農奴解放後も前と同じことしてたら滅亡したみたいな感じかなと思っている。社会の変化に対応しないと死ぬ系はロシア文学的だなと感じる。作中で燐マッチの頭を水にとかして飲み自殺するシーンがあるが、これが非常に印象的だった。ロシア文学的自殺といえば銃しか見たことがないからですね。ポルフィーリはガチで不快なヤツなので、「気分悪くなりたいな」とか「気が滅入るやつ一丁読みたいな」という人はぜひ読んでみてください。オススメです。読んだのは岩波のです。おもしろかったです。おしまい。